山廬
龍太忌の山むらさきや梅ふふむ
青竹の雪解の水の甘きかな
月影の褥となりぬ落椿
釣人や鳶の高みに山桜
奔り去る水また春に還り来よ
おほぞらを余白としたり夏の雲
揚羽蝶光と陰を縫ふやうに
老鶯や雲中にして水の里
縁側の麦藁帽子あるじ待つ
ふうりんの彼岸此岸とさし響き
息とめて受継ぐいのち庭花火
銀漢の声となりけり谷の川
朝顔に兄の真似して耳あてて
白桃もひとの輪廻に加へたき
かなかなの富士は炎となりにけり
はらからの貌して柿の撓なる
いくたびの別れの果や新松子
蛇笏忌や連山越ゆる鷹柱
山廬とは永遠に冬蝶舞ふところ
移りゆく雲の華やぎ軒氷柱